記憶

しろくま

思い出さない、忘れる。
念じるように過ごしている。

シロクマ効果だ。思ってはいけないと思うほどに思い出す。
外を歩いていたって危ない。海の潮の匂い、芝生を歩く感触、白い花。無防備になると飛び込んでくる。
机に座ってあーあとうなだれると目に入るのは自転車で日焼けした自分の両腕。
Zoomの画面ごしに久しぶりに見たそのひとが何の気なしに両手を挙げて頭にのっけたときに上腕二頭筋が太くなっているのに気づいてどきっとしたこと。
その顔はサングラス焼けでパンダになってた。
忘れて、自転車に乗って、日焼けしたいと思っていた。
なまっちろい肌よ黒くなれ、と思っていた。まんまと自分に騙された。
もし自分の望む範囲の記憶を消し去ってくれる薬があるなら、すこし前の私はすぐに飲みほしただろう。
忘れられない忘れられっこない、そういう部屋がいつの間にかできていた。その部屋が風を欲しがるから、ときどきこうして窓を開けている。

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