夜中に目が覚めた。
坂道の途中にある、DIYで建てたような白っぽいプレハブにひとり住んでいる。
早朝、倉庫で働いた後ロードバイクで橋を渡って帰宅している。電話がかかってきてイヤホンで通話しながら走る。原稿のやりとりについて。まだ原稿仕事もしてるみたいだ。気分がいい。帰宅して、すごい風で自分の家にかぶせてあった幌のようなものがめくりあがり、アスファルト道路の間に深くて大きな溝があるのを見ている。これ、どうにかしないと通行した人が危ないなと思っている。すきま危険、とか書いたものを貼るのか、それともどうすればこの溝を埋められるんだろう、ホームセンターで資材を調達しなきゃ、家族に相談しようか、気持ちは焦るのに眠たくて体を起こしていられず家にあがって横になる。夢で夢を見る。小さな男の子が道を歩いている。ふらっと体が傾いて溝に落っこちる。恐怖と痛みに満ちた悲鳴が耳を突き刺し目覚める。
目覚めてからも、どうして溝をすぐに塞がなかったのだろうと考え続けた。私はその様子を見ていたのに。溝は深さ2メートル以上もあった。底は硬いコンクリ。男の子のケガはどうだったかずっと考えてた。悔やんで、悔やんで、ようやくうっすら、夢だったんだ、と気づいた。
ここでいま生きていて、いろんな人に事故のように出逢い、流れ弾を受ける。誰かを蝕む。雨に打たれて輪郭が溶ける。そうして歩いて行くしかない。勇敢でありたいと思う。自らに巣くう暴力に対して。また起き上がれる筋力を、せめて。