日常

遠吠え

金曜日はこぐまの卒業式だった。中高6年間過ごした場所。
式が終わってから2時間強のクラスでの時間が濃厚すぎていまだに彼らの声が反響して夜あまり眠れない。
担任のくりちゃん(凄腕。塾経営を目指している)が教室の黒板のところでひとりひとりに卒業証書を渡して、うけとった本人がクラスのみんなへ、親への感謝、先生への言葉、などなんでもトークしていいというお題だった。そしてそのあとくりちゃんがその生徒にメッセージを送る。
順番は賞状をシャッフルして決める。

最初のYくんは「いやー、こんなみんなの前で話すと泣いちゃいそうなんで、僕の好きな天体観測の話をします」と天体観測の話をする。くりちゃんが「じゃあYくんはこれからも見えないものを見ようとしてください」とコメントする。

こぐまは3人目だった。「なんていうのかなぁ。すごい壁を感じたんだよね。わたし、発表の人、みたいに思われてて(中学時代に毎年、プレゼンテーションで代表になってた)。でもつきあううちに私がクズってことがわかってもらえてちょっとずつ話ができるようになって。好きな音楽教えてくれたりして」。なんかあいみょんみたいだなと思って見てた。
あいみょんの何を知ってるわけでもないけど雰囲気が。嘘の言えない感じが。前に立ったら意識がとんで、なに話したか覚えてないって言ってた。

くりちゃんは、「中学3年のときのオンライン授業のとき、みんなが担任のK先生に日記を出してたよね。私あれ実は見てたんです。高校になったら担当する生徒だからね。ごめんねー。で、こぐまさんが書いてたの、私のこと。あのひと怖い。進路説明会のときにもこんなこと話してた、とか。こっちは、そういうふうに洞察するお前が怖いわ!って思いましたねー」

ひとりひとりの話も3分以上になり、それに対するくりちゃんのコメントも長くて、28人分まわるころには午後3時。こぐまと仲良しのWくんの順番になった。
「みんながうるうる来てるので、にょろにょろしてるうなぎの話をします」と釣りの話をする。夜10時ぐらいまで、釣り糸を垂れて音楽聴きながらぼーっとしてるときの気持ちよさとか。えさのミミズを家のなかで飼っててあちこち脱走してることとか。「今日、話すって聞いてゆうべなにが一番思い出に残ってるかなって考えたんですよね。お弁当忘れた日があって、どうしようかなって思ってたらTくんが非常用のでっかいパン持ってて、半分分けてくれたんです。優しい人だなぁ。こんな優しい人いるかなって。それ思い出したら泣けてきちゃって。いまこれ話したらなんか泣けてきた……」結局言葉にならなくなって終わる。

あーなんかこぐまが惹かれる理由わかったなぁと思った。
春に二人は小山田壮平のライブにいくらしいけど、どうかそんなふうに、好きなものをそれぞれが大切に持っている同士でいてほしいなと思った。
氷の板をそれぞれが手に持っていて、二人で立ちすくんでにやっと笑ってるみたいな。

ゴールに恋愛を目指していない関係。どうして二人が揃うと恋愛がその先にあると思うんだろう。
いっとき目を合わすけど、離れた場所で遠吠えしてる、そんなのが生きてるってことのように思う。

・・・・・・・・・・
先週と今週で、15人のシェフの料理への思いを聞いて原稿にするという仕事がねじ込まれてきた。フレンチや日本料理や蕎麦職人とか。怖い人も、柔らかい人も。それぞれ、アイドルタイムに30分、電話でお話を聞く。いきなり初めて話をして本質的なことまで口にしてくれるか、真剣勝負でへとへと。でも、卒業式のひとりひとりの無防備な姿を見ることが出来たからなのか、わりと楽しめてる。
そういえば私は「闇鍋」みたいな仕事がしたいなぁといつか思い浮かべていたのだった。
誰なのか、なにをしているのかわからない相手が目の前に座り、話を聞いて書く、みたいなの。これってまさにそれじゃない? と思ってる。がんばろう。

4 Comments on “遠吠え

  1. 聞かせてくれてありがと。
    うんうん、いい時間だったねぇ
    なかなかそういうの、無いと思う。

    自分を振り返ってみても、今になって思うのは
    恋愛に結びつかない関係は絶対に恋愛にはならないと。
    それがダメなことでもないし、その逆でもいいし。
    結局は その人の感覚 だから何にも言えない。
    あとから思えば あの時もっと真剣に頑張って伝えてみればよかったな
    っていう想いって一個しかない。私はね。

    若い子達には「どんなに自尊心やプライド持ってたって
    素直になれるところでなれない方が負け。自分に負け」と伝えたい。
    若者よ、悔いなく進め!笑

    闇鍋みたいな仕事。
    ふふふ、面白いこと言うなぁ
    なんかかっこいいな✨✨

  2. umiさん これはumiさんに伝えたいと思って、だだーっと書いたよ。

    umiさんの言葉、かっこいいな。
    うんうん、確かにあの日のあの場のみんなは
    それぞれなりに素直だったな。
    素直になれない素直さを出した子もいたし。
    こぐまのように、先生や親への感謝なんて言わないよっていう素直さもいたし笑

    自分に負け
    って、好きな言葉だと思った。
    私も刻もう。

    umiさんが運転してる車をだっと止めて、
    歩いてた私に向かって窓開けてくれて
    「今日こんなことあってさ」「そっか、うんうん、じゃまたね!」
    みたいなやりとりが本当はしたいのだけどそれができているのがこの場だったり
    umiさんのブログだったりする。

    いつもありがとう。

  3. 伝えてくれてありがとう

    うんうん、そういう感じで読んだよ。
    こちらこそありがとう。

    こういう日常の中の心に留まった風景や想いを
    伝えてもらえるのがとても嬉しい。

    うまくいくこととそうじゃないこと。
    伝わることと伝わらないこと。
    キャッチできるものとできないもの。
    本当にどちらの可能性もあって、どちらも必然でも偶然でも起きて。

    それは大人になってからもきっと私たちがおばあちゃんになってからもおんなじで。
    今の自分よりも若いからこその色々もいっぱいあって
    きっと過ぎてしまってもう取り戻せない時間だから
    勝手に こうなほうがいいよ って思うんだけれど
    最終的には皆んな個々に違うから、自分なりに足掻いていくしかないんだなーとか。

    さ、お昼食べちゃうね。
    今日は昨日の残りのシチューです。まだまだ寒いよ、こっち。笑

  4. ほんとだね。
    どっちでもよく、必然であり偶然でありだね。

    そして、おばあちゃんになっても同じっていう言葉に、なんかぱあっと光が差した感じがしたーー!

    われらもがき族。

    残りのシチューっておいしいよね。うちも夕べは冷凍コロッケ揚げて、シチューかけた。

    こぐまはね、きのう派遣バイトに登録して、いまオンラインで研修受けてるよ。
    いきなりバイトはじめておもろ。

    またね!!

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